先頭まで、届かせてこそ阿呆連 大太鼓 二十四年の打ち手にきく、こだわりの流儀

徳島の夏は、蒸し暑い。その蒸し暑さの中、八月の本番に向けて六月から毎晩、練習を続けている連がある。阿呆連だ。
数年、この連を見てきた。そのうちに、ひとつの問いがよぎった。連とは、なにでできているのか。
その答えを出すために、連をひとつずつ分解して、そこにいる一人ひとりに目を向けていく。そのひとは、なにでできているのか、と問いながら、ここにあるもの、の本質を解いていく。
今回の一人は、大太鼓の打ち手だ。腹に響く低い一打が、阿波おどりの土台をつくる。その重い音を、桟敷のいちばん先まで届かせようとしている。
阿呆連とは
阿呆連は、徳島市の阿波おどり振興協会に所属する有名連のひとつ。一九四八年に結成された、低く前傾して豪快に舞う「阿呆調」の本家だ。
右肩の破れ傘を目印に、いまは約百四十名で踊り継いでいる。
阿呆連の顔ぶれ
連は、男踊り、女踊り、そして囃子を担う鳴り物でできている。その一角を一役ずつ取り出し、十数名に話を聞いていく。
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鉦全体のテンポをとる→ 読む
笛澄んだ音で主旋律を→ 読む
団子・松大勢でひとつの形に→ 読む
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今回の記事大太鼓低音で土台をつくる
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大太鼓とは ― 連の土台をつくる低音

大太鼓は、大型の和太鼓だ。一本の木をくり抜いた胴の両面に牛革を張り、鋲でしっかり留めてつくる。胴には欅などの木が使われる。低く深く、腹に響く大音量の音が出て、祭囃子や組太鼓などで打たれる。
阿波おどりの鳴り物では、大太鼓は低音を受け持ち、お囃子全体のベース・土台としてリズムと拍を支える。腹に響く豪快な音が、うねりのあるグルーヴと迫力を生む。徳島では、十キロ近い太鼓を抱えて打つことも多い。
本人に、聞く
力任せじゃない
大太鼓は、今で何年目になりますか?
大太鼓を始めて、二十四年ぐらいかな。阿呆連は八年目、今年で九年目になるのかな……。
大太鼓で、いま一番に求めているのはどんなところですか?
当然リズムもあるけど、とりあえず今求めてるのは、音圧、ボリュームですね。その音圧っていうのは、力いっぱい叩いても、威力にはならないんですよ。結局、撥がどれだけ触れるか、手首がどれだけ使えるか。大太鼓って、叩けば鳴るじゃないですか。「ドーンがドーン」じゃなくて、「ドンドン」って鳴らさないといけない。刻むというか、手首で打っていく。それが一番大事。
難しさを感じるのは、どのあたりですか?
弾ますリズムやね。ただ叩けば鳴るから、「ドンがドン叩いたらええよ」じゃない。きっちり弾ます芯の音を出して、それを鉦に合わせていく。鉦が刻んでいく、その音のどこに合わせるか。合わせるだけだと、もう一つ乗ってこない場合があるので、ちょっと前を向いて出していく。
きっちり、弾ます芯の音を
一人の音が、連の音になる
その理想の音があるぶん、教える時にも熱が入りそうです。
今夜もそうやった(取材は、阿波おどり本番前の夜の練習中)。大太鼓の音が弾んでない、重たいとしか聞こえんくてね。「もう僕は叩くのをやめるわ」って、太鼓を置いて言いにいったんですよ。僕一人が叩いたって、みんなが変わらんと音は変わらんから。あれだけ重たいと、他の締(太鼓)も叩きにくいし、笛も吹きにくいしね。
この日、自分の太鼓を置いて、大太鼓の一人ひとりの横につき、そのリズムに耳を傾ける姿があった。
太鼓を置いてでも、言いにいく
お客さんに、届かせたい

全体と合わせて叩く中で、大太鼓は連の音の何を担っていると思いますか?
桟敷での役割は、一番先頭にまで音を届かせること。大太鼓は連の音の土台(ベース)だから、後ろから別の連の音が近づいてきても、それに負けない。特に前の方、女踊りの先頭は、前の連の音でごっちゃになる時があると思うんですよ。僕はそれが嫌で。だから大太鼓の音を一つにして、前へ音を飛ばしたい。それが大前提、と考えとる。その上で大太鼓の音っていうのは、重低音で、連の音に厚みを作ってると思うね。
自分の音に、こうしたい、というのが明確にあるんですね。
そうやね。理想は、お客さんにちゃんと届く音、聞こえる音やね。座って踊り子を見てるお客さんの真横で、力いっぱい「バーン」と叩ききる。平気な顔で見てはるより、びっくりしてくれたら「お、届いたな」と思うでしょ。何もなかったら「聞こえてないんかな」って気になってね。だから叩いてる間も、ちゃんと届いとるか、お客さんの顔をよう見てるんですよ。そうやってると、ちゃんと反応が返ってくる。それがやっぱり、やりがいになるんです。

このひとは、なにでできてるか

大太鼓は、腹に響く低音で、連の音の土台をつくる。
けれど、このひとの一打は、ただ大きいだけの音ではない。力任せでは、威力にならない。手首で弾ませた芯の音を、ひとつにまとめて、後ろから前へと押し出す。鳴り物は列の後ろ、女踊りは一番前。その距離を越えて、連の先頭が前の連の音に紛れないよう、音を届かせる。――このひとは、弾ませて、前へ飛ばす一打、でできている。
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