もう十分やってきて、それでも阿呆連 女踊り 二十七年の育て手にきく、退いて、なお前へ進む差し足の行方

徳島の夏は、蒸し暑い。その蒸し暑さの中、八月の本番に向けて六月から毎晩、練習を続けている連がある。阿呆連だ。
数年、この連を見てきた。そのうちに、ひとつの問いがよぎった。連とは、なにでできているのか。
その答えを出すために、連をひとつずつ分解して、そこにいる一人ひとりに目を向けていく。そのひとは、なにでできているのか、と問いながら、ここにあるもの、の本質を解いていく。
今回の一人は、女踊りを支えてきた人だ。二十七年、そのうち九年、リーダーを務めた。じつは、いちばん入りたくなかった連だったという。それが、二十七年。「もう十分やった」と言いながら、その目線は、まだ前を見ている。
阿呆連とは
阿呆連は、徳島市の阿波おどり振興協会に所属する有名連のひとつ。一九四八年に結成された、低く前傾して豪快に舞う「阿呆調」の本家だ。
右肩の破れ傘を目印に、いまは約百四十名で踊り継いでいる。
阿呆連の顔ぶれ
連は、男踊り、女踊り、そして囃子を担う鳴り物でできている。その一角を一役ずつ取り出し、十数名に話を聞いていく。
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副連長次の世代を、育てる→ 読む
鉦全体のテンポをとる→ 読む
笛澄んだ音で主旋律を→ 読む
団子・松大勢でひとつの形に→ 読む
三味線旋律に厚みを重ねる→ 読む
大太鼓低音で土台をつくる→ 読む
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奴凧凧のように舞う、男踊りの主役→ 読む
今回の記事女踊り全員が揃って、ひとつに
前副連長連を、支えてきた近日公開
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女踊りとは ― 全員が揃って、ひとつに魅せる

女踊りは、編み笠を目深にかぶり、下駄を履いて、爪先立ちで前傾して舞う。指先まで伸ばした高い手と、そろった足はこびが特徴だ。
阿波おどりは、そもそもが集団の芸だ。連という大勢の一団が、ひとつになって踊る。そのなかでも女踊りは、大勢が同じ形にそろい、一糸の乱れもなく舞う。全体がひとつに見えること——ひとりの巧さより、その統一そのものを、いちばんの美とする。
本人に、聞く
もう、十分やった
女踊りを二十七年。そのうち九年、リーダーを務めた。いまは、その役を継ぐ人を育てる側にいる。連には今、女踊りのリーダーがいない。一年、空けているという。
ご自身が、またリーダーに戻る、という選択は?
もう、十分やらせていただいたので。リーダーは、若い子、まだまだこれから頑張ってもらいたい子にやってもらう。今はサブに二人あげて、期待を込めて育てている最中です。
では、ご自身はどういう立場で?
どちらかというと、指導する側を主力にしていきたい、っていうのは正直あります。リーダーは若手にやってもらって、それ以外の、連としての、女踊りとしてのバックアップ、っていう立場でいたい。それが、一番の思いですね。
指導する側を、主力にしていきたい
手を、下げない
その“バックアップ”は、口だけではない。指導といっても、桟敷では自分も入って踊る。踊り子の数はそう多くないから、踊りながら、全体を見渡す。
全体を見て、まず何を気にしていますか?
踊れているか。新人さんもいますので、それが見えないように、連としてひとつにまとまっているか。桟敷を長くやっていると、だんだん手が下がってきてるな、この子は足が上がってないな、っていうのが見える。そういう見栄えを、特に見ています。
集団のなかで、一人でも手を下げてしまうと、他の子が頑張っているのに、その子ひとりで崩れて見えてしまう。お客さんも、「あれ、今いっしゅん違和感があったな」って、絶対に気づくんです。
新人さんに、いちばん初めに言うことは?
「桟敷一本、頑張って笑顔と、手を下げない」。きつくても、絶対に手は下げたらいかんよ、と。技術は、一年目の子と、私みたいに二十何年やってる子とでは、どうしても差がある。でも、手を下げないことは、年数に関係なく、誰でもできる。だからそこだけは、全員に徹底して言います。
桟敷一本、頑張って笑顔と、手を下げない
揃えるのは、意識
見るのは、見栄え。では、その“揃った”は、どこから生まれるのか。動きや形をそろえること――ではないという。
揃えるのは、動きや形ですか?
揃えるのは……意識ですかね。全員が同じ方向を向いていないと、一人でも「きついな、しんどいな」と思ったら、それが踊りに出てしまう。桟敷に入った時は、楽しむ、かつ見せる、見てもらっている——その意識を全員が持てば、上手い下手は別として、統一された踊りになると思うんです。
揃えるのは、意識
まだまだ、底上げしたい
「もう十分やった」と言う。その言葉のわけを尋ねると、話は二十七年前へさかのぼった。
じつは、いちばん入りたくない連だったんですよ。怖すぎて。昔は厳しかったので。それが何の縁か入って、まさか自分が、指導する立場になって何年も経って。それでも毎年、踊り出す寸前には、いまも鳥肌が立つんです。
その思いが、いまも続いているんですね。だからこそ、まだ、立ち止まれない、と。
積み上げるのは大変でも、落ちるのは、早いんです。何にしたってね。落ちるのは、すごい嫌なんで。だから、新しい子、年数の少ない子を、どんどん底上げしたい。
新しい子を、どんどん底上げしたい
このひとは、なにでできてるか

阿波おどりは、みんなで踊る集団の芸。そのなかでも女踊りは、全員がひとつにまとまることを、なにより大事にする。
このひとは、その集団を保つ側にいる。技術は、揃えられない。だから、年数に関係なく誰でもできる一本——手を下げない——を、全員に徹底して引く。リーダーは若い子へ譲り、「もう十分やった」と言う。それでも、連の踊りが落ちるのは、嫌だ。だから、支える側を“主力”にしたいと言う。退くのではなく、なお前へ。
――このひとは、積み上げてきたものを、落とさせない人でできている。
退いて、なお前へ進む差し足の、行方。
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