そのひとは、なにでできてるかportrait 09

奴があっての、僕阿呆連 男踊り/奴凧 糸を引く踊り手にきく、個人技がつなぐ集団の美

2026.8.11徳島・阿波おどり読了 5分
阿波おどり阿呆連の男踊り、奴凧の糸を引く最前列の踊り手
阿波おどり阿呆連の男踊り、奴凧の糸を引く最前列の踊り手

徳島の夏は、蒸し暑い。その蒸し暑さの中、八月の本番に向けて六月から毎晩、練習を続けている連がある。阿呆連だ。

数年、この連を見てきた。そのうちに、ひとつの問いがよぎった。連とは、なにでできているのか。

その答えを出すために、連をひとつずつ分解して、そこにいる一人ひとりに目を向けていく。そのひとは、なにでできているのか、と問いながら、ここにあるもの、の本質を解いていく。

今回の一人は、奴凧(やっこ)で、先頭に立って糸を引く踊り手だ。凧のように舞う「奴」がいる。その奴を、豪快に体を揺らして“飛ばして”見せているのが、このひとだ。

阿呆連とは

阿呆連は、徳島市の阿波おどり振興協会に所属する有名連のひとつ。一九四八年に結成された、低く前傾して豪快に舞う「阿呆調」の本家だ。

右肩の破れ傘を目印に、いまは約百四十名で踊り継いでいる。

阿呆連とは(詳しく読む)徳島を代表する名門連。歴史・特徴をまとめて読む

阿呆連の顔ぶれ

連は、男踊り、女踊り、そして囃子を担う鳴り物でできている。その一角を一役ずつ取り出し、十数名に話を聞いていく。

奴凧とは ― 奴を、大勢で“揚げる”見せ場

練習で奴凧の糸を引く阿呆連の最前列の踊り手
練習で奴凧の糸を引く阿呆連の最前列の踊り手

奴凧(やっこだこ)は、阿呆連の男踊りの見せ場だ。凧に見立てた舞い手「奴」は、一人。その奴を、糸を引く一団が“揚げる”。

先頭で豪快に体を揺らして糸を引く人がいて、その後ろに、何人もの引き手が連なる。舞う奴と、糸を引く先頭。この二人の掛け合いが決まって、初めて演出が成立する。今回のひとは、その先頭で糸を引く役だ。

本人に、聞く

奴があっての、僕

今で、何年になりますか?

話を聞いた阿呆連の奴凧・糸引きの踊り手

阿呆連に入って、十年。阿波おどり自体は、十八年になります。

奴凧は、舞う奴を、糸を引く一団が揚げる見せ場。その先頭で、豪快に体を揺らし、奴の動きに呼応するのが、このひとだ。先頭で引くことを、どう捉えているのか。

奴があっての僕でも、僕があっての奴なんで。奴と、糸引きの一番先頭は、二人の掛け合い。どっちもしっかり見せて、初めてあの演出が成立する。奴と同等ぐらい、重要なポジションだと思ってます。いかに奴を、飛んで糸がつながったように、奴のように見せられるか。それが、僕の動き一つで変わるんで。奴が飛んだら、自分もついていくし、奴が回ったら、奴を回しているように、自分も動く。

奴に、合わせてるってことですか?

メインはやっぱり奴なんで、奴を引き立たせる。奴がどんな動きをしても、それに対応する。でも——僕が操ってるように見せるように、僕が合わせてる、っていう感じなのかな、と思います。

僕が操ってるように見せるように、僕が合わせてる

中間管理職

前を向いて奴に合わせながら、このひとの後ろには、引き手がずっと連なっている。

僕が一人で勝手に動いても、僕より後ろの引き手が、見えなくなってしまう。目線は奴の方、前を向いてるけど、後ろにも意識して。奴も意識するけど、全体を意識しないと。僕が、中間管理職的な立ち位置でいるのが、大事なのかなと思ってます。

中間管理職的な立ち位置でいるのが、大事

そのなかで、自分の体は、どこを意識してるんですか?

指先ですかね。腕から指先にかけてが、一番意識します。移動の時は、姿勢を低く落として。うまくいったな、と思うのは、奴と僕の動きが、ぴったり噛み合う時。半歩ずれたな、っていう時もあります。後ろの引き手の間隔が広くて、糸が間延びして見える時も、あとから映像で分かる。

あの歓声のために

続けている理由をきくと、話は、阿呆連での最初の夏にさかのぼった。

移ってきた一年目の、お盆。桟敷に入ろうとした瞬間の、歓声が、すごくて。他の連で桟敷に入ったことは、何回もあったんですけど。あの歓声は、今でも忘れられなくて。すんごい鳥肌が立ったのを、覚えてます。その瞬間のために、続けてるのかもしれないです。

すんごい鳥肌が立ったのを、今でも忘れられなくて

あの夏の歓声は、いまもこのひとの中で、鳴りやまない。

今後の自分のお姿というのはどのように見えていますか?

自分が踊れなくなるまで、男踊りをやり続けたい。踊り子として、息を長く続けられるように。それが、長い目で見た時の、自分の考えですね。


このひとは、なにでできてるか

糸を引く先頭の後ろに男踊りが連なる阿呆連の奴凧
糸を引く先頭の後ろに男踊りが連なる阿呆連の奴凧
成分 体=阿波おどり十八年、阿呆連で糸を引く一番前 / 技=奴に合わせて、操っているように見せる / 心=奴を立て、後ろを束ね、集団を重んじる

奴凧は、ひとりの奴を、糸を引く一団が揚げる見せ場。その先頭で糸を引くのが、このひとだ。

奴に合わせて動きながら、自分が奴を操っているように見せる。合わせが決まるほど、奴との境目は消えて、ひとつに見える。前の奴も、後ろの引き手も、自分の動きひとつでつないで、ばらばらを、ひとつの見せ場にする。「奴があっての僕でも、僕があっての奴なんで」と、このひとは言う。

つないでいるのは、個と集団だけではない。移ってきた最初の夏、桟敷に入ろうとした瞬間の歓声を、今も忘れられずにいる。あの一瞬の記憶と、まだ見ぬこれからを、同じ手で、たぐり寄せている。

――このひとは、個と、集団を、あの夏の歓声と、これからを――つなぐ力、でできている。

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