そのひとは、なにでできてるかportrait 11

もう十分やってきて、それでも阿呆連 女踊り 二十七年の育て手にきく、退いて、なお前へ進む差し足の行方

2026.8.11徳島・阿波おどり読了 6分
阿波おどり阿呆連の女踊りを指導する指導者
阿波おどり阿呆連の女踊りを指導する指導者

徳島の夏は、蒸し暑い。その蒸し暑さの中、八月の本番に向けて六月から毎晩、練習を続けている連がある。阿呆連だ。

数年、この連を見てきた。そのうちに、ひとつの問いがよぎった。連とは、なにでできているのか。

その答えを出すために、連をひとつずつ分解して、そこにいる一人ひとりに目を向けていく。そのひとは、なにでできているのか、と問いながら、ここにあるもの、の本質を解いていく。

今回の一人は、女踊りを支えてきた人だ。二十七年、そのうち九年、リーダーを務めた。じつは、いちばん入りたくなかった連だったという。それが、二十七年。「もう十分やった」と言いながら、その目線は、まだ前を見ている。

阿呆連とは

阿呆連は、徳島市の阿波おどり振興協会に所属する有名連のひとつ。一九四八年に結成された、低く前傾して豪快に舞う「阿呆調」の本家だ。

右肩の破れ傘を目印に、いまは約百四十名で踊り継いでいる。

阿呆連とは(詳しく読む)徳島を代表する名門連。歴史・特徴をまとめて読む

阿呆連の顔ぶれ

連は、男踊り、女踊り、そして囃子を担う鳴り物でできている。その一角を一役ずつ取り出し、十数名に話を聞いていく。

女踊りとは ― 全員が揃って、ひとつに魅せる

練習で女踊りを指導する阿呆連の指導者
練習で女踊りを指導する阿呆連の指導者

女踊りは、編み笠を目深にかぶり、下駄を履いて、爪先立ちで前傾して舞う。指先まで伸ばした高い手と、そろった足はこびが特徴だ。

阿波おどりは、そもそもが集団の芸だ。連という大勢の一団が、ひとつになって踊る。そのなかでも女踊りは、大勢が同じ形にそろい、一糸の乱れもなく舞う。全体がひとつに見えること——ひとりの巧さより、その統一そのものを、いちばんの美とする。

本人に、聞く

もう、十分やった

女踊りを二十七年。そのうち九年、リーダーを務めた。いまは、その役を継ぐ人を育てる側にいる。連には今、女踊りのリーダーがいない。一年、空けているという。

ご自身が、またリーダーに戻る、という選択は?

話を聞いた阿呆連の女踊りの指導者

もう、十分やらせていただいたので。リーダーは、若い子、まだまだこれから頑張ってもらいたい子にやってもらう。今はサブに二人あげて、期待を込めて育てている最中です。

では、ご自身はどういう立場で?

どちらかというと、指導する側を主力にしていきたい、っていうのは正直あります。リーダーは若手にやってもらって、それ以外の、連としての、女踊りとしてのバックアップ、っていう立場でいたい。それが、一番の思いですね。

指導する側を、主力にしていきたい

手を、下げない

その“バックアップ”は、口だけではない。指導といっても、桟敷では自分も入って踊る。踊り子の数はそう多くないから、踊りながら、全体を見渡す。

全体を見て、まず何を気にしていますか?

踊れているか。新人さんもいますので、それが見えないように、連としてひとつにまとまっているか。桟敷を長くやっていると、だんだん手が下がってきてるな、この子は足が上がってないな、っていうのが見える。そういう見栄えを、特に見ています。

集団のなかで、一人でも手を下げてしまうと、他の子が頑張っているのに、その子ひとりで崩れて見えてしまう。お客さんも、「あれ、今いっしゅん違和感があったな」って、絶対に気づくんです。

新人さんに、いちばん初めに言うことは?

「桟敷一本、頑張って笑顔と、手を下げない」。きつくても、絶対に手は下げたらいかんよ、と。技術は、一年目の子と、私みたいに二十何年やってる子とでは、どうしても差がある。でも、手を下げないことは、年数に関係なく、誰でもできる。だからそこだけは、全員に徹底して言います。

桟敷一本、頑張って笑顔と、手を下げない

揃えるのは、意識

見るのは、見栄え。では、その“揃った”は、どこから生まれるのか。動きや形をそろえること――ではないという。

揃えるのは、動きや形ですか?

揃えるのは……意識ですかね。全員が同じ方向を向いていないと、一人でも「きついな、しんどいな」と思ったら、それが踊りに出てしまう。桟敷に入った時は、楽しむ、かつ見せる、見てもらっている——その意識を全員が持てば、上手い下手は別として、統一された踊りになると思うんです。

揃えるのは、意識

まだまだ、底上げしたい

「もう十分やった」と言う。その言葉のわけを尋ねると、話は二十七年前へさかのぼった。

じつは、いちばん入りたくない連だったんですよ。怖すぎて。昔は厳しかったので。それが何の縁か入って、まさか自分が、指導する立場になって何年も経って。それでも毎年、踊り出す寸前には、いまも鳥肌が立つんです。

その思いが、いまも続いているんですね。だからこそ、まだ、立ち止まれない、と。

積み上げるのは大変でも、落ちるのは、早いんです。何にしたってね。落ちるのは、すごい嫌なんで。だから、新しい子、年数の少ない子を、どんどん底上げしたい。

新しい子を、どんどん底上げしたい


このひとは、なにでできてるか

写真を撮りながら女踊りの仕上がりを確認する阿呆連の指導者
写真を撮りながら女踊りの仕上がりを確認する阿呆連の指導者
成分 体=二十七年、女踊り一筋。リーダーを経て、指導へ / 技=技術の差を越えて、全員に一本の線を引く / 心=自分が前に出ることより、連の踊りが落ちないこと

阿波おどりは、みんなで踊る集団の芸。そのなかでも女踊りは、全員がひとつにまとまることを、なにより大事にする。

このひとは、その集団を保つ側にいる。技術は、揃えられない。だから、年数に関係なく誰でもできる一本——手を下げない——を、全員に徹底して引く。リーダーは若い子へ譲り、「もう十分やった」と言う。それでも、連の踊りが落ちるのは、嫌だ。だから、支える側を“主力”にしたいと言う。退くのではなく、なお前へ。

――このひとは、積み上げてきたものを、落とさせない人でできている。

退いて、なお前へ進む差し足の、行方。

動画で見る・聴く

特集トップ 連とは、なにでできているか。
PAGE TOP