祇園祭の山鉾は34基ありますが、生身の子どもが乗るのは長刀鉾だけです。八坂神社は「鉾の町内には祭の稚児の当番が定められていたが、現在では長刀鉾以外では人形が用いられています」と説明しています。
この記事は、八坂神社が公開している神事・行事の一覧で確認できることと、公表されていないことを分けて書きます。検索でよく出てくる「費用」と「選ばれ方」は、調べた範囲では八坂神社にも京都市観光協会にも説明がありません。
3分で説明すると
- 鉾に乗る生身の稚児は長刀鉾だけ。ほかの鉾は人形
- 7月1日の長刀鉾町御千度で、その年の稚児と禿2人が八坂神社に参拝する。ここが初お目見え
- 7月13日11時の稚児社参で、立烏帽子・水干姿・騎馬で八坂神社へ。俗に「お位もらい」
- 社参から17日の巡行まで身を慎む
- 7月17日の巡行当日、四条麩屋町で太刀で注連縄を切り、鉾の正面で太平の舞を舞う
- 稚児は長刀鉾だけではない。久世駒形稚児は神輿に供奉し、綾傘鉾にも稚児がいる
- 選び方と費用は公表されていない
お稚児さんとは|長刀鉾だけが生身の子ども
祇園祭で「お稚児さん」と言うとき、ふつうは長刀鉾の稚児を指します。前祭の巡行で先頭を行く長刀鉾の、屋根の下の正面に座っている子どもです。
ほかの鉾は人形
八坂神社の説明では、もともと各鉾町に稚児の当番が定められていたとあります。つまり昔は複数の鉾に生身の稚児がいました。それが今は長刀鉾以外では人形に置き換わっています。
巡行を見ていて「あの鉾にも子どもが乗っている」ように見えても、動かないのはそのためです。人形に名前がついている鉾もありますが、どの鉾の人形が何という名かをまとめた資料は見つかりませんでした。
久世駒形稚児は別の稚児
長刀鉾の稚児とは別系統の稚児がいます。久世稚児(駒形稚児)です。主催は長刀鉾町ではなく綾戸國中神社で、7月13日午後2時に八坂神社へ社参します。
この稚児が出るのは山鉾巡行ではなく神輿のほうです。八坂神社は「17日神幸祭、24日の還幸祭に供奉する久世稚児」と書いています。山鉾を見ただけでは会えません。神輿の行事は 祇園祭の神輿 にまとめています。
稚児は全部で何人いるのか
八坂神社の行事一覧には、稚児の社参が3種類載っています。
- 7月7日 午後2時30分|綾傘鉾稚児社参(主催:綾傘鉾町)
- 7月13日 午前11時|長刀鉾稚児社参(主催:長刀鉾町)
- 7月13日 午後2時|久世稚児社参(主催:綾戸國中神社)
さらに7月24日の花傘巡行には「馬長稚児・児武者」が加わります。「お稚児さんは一人」と思われがちですが、祇園祭の中で稚児と呼ばれる子どもは複数の系統に分かれています。
そのうち鉾に乗るのは長刀鉾の稚児だけです。ここが混同されやすいところで、「綾傘鉾の稚児」を長刀鉾の稚児と同じものだと思って写真を探すと、見つかりません。
どうやって選ばれるか|公募はない
公募はありません。長刀鉾町(長刀鉾保存会)が選びます。
選考の基準は公表されていない
どういう基準で誰が選ぶのか、八坂神社と京都市観光協会の公開資料には書かれていません。「申し込めば候補になれる」という窓口も見当たりません。選考の過程は外に出ていない、というのが調べた範囲での答えです。
検索すると「京都の名家から選ばれる」「代々決まった家系がある」といった説明が出てきますが、どれも出典が示されていません。この記事では断定しません。
いつ発表されるか
発表日は決まっていませんが、7月1日の長刀鉾町御千度には、その年の稚児と禿が参加します。八坂神社は「町内役員がその年の稚児・禿を伴い神事の無事を祈り八坂神社に参拝」と書いています。
つまり7月1日には、その年の稚児がもう決まっていて、公の場に出てくるということです。それより前に知りたい場合は、長刀鉾町の発表か報道を待つことになります。発表の時期を定めた案内は見つかりませんでした。
禿(かむろ)という2人の付き添い
稚児には禿(かむろ)という2人の付き添いがつきます。同じく子どもです。
八坂神社の7月1日の記述に「その年の稚児・禿を伴い」とあるとおり、禿も稚児と同じ日程で動きます。巡行では鉾の上で稚児の両脇に座ります。写真で「子どもが3人乗っている」ように見えるのは、真ん中が稚児、左右が禿だからです。
禿の選び方についても、説明は見つかりませんでした。
選ばれると何をするか|7月の動き
八坂神社の行事一覧から、稚児が関わる日を抜き出すと次のようになります。
7月1日 午前10時|長刀鉾町御千度
長刀鉾町の役員が、その年の稚児と禿を伴って八坂神社に参拝します。祇園祭が始まった最初の日です。この日が、稚児が公の場に出る最初の機会になります。
7月13日 午前11時|稚児社参
祭の中で最も知られた稚児の行事です。八坂神社の説明はこうです。
- 立烏帽子・水干姿
- 従者を伴い、騎馬で八坂神社に詣でる
- 俗に「お位もらい」という
- この日から17日の巡行まで身を慎む
馬に乗って四条通を進む姿は、写真で見かける機会が多いはずです。これが13日の午前11時の行事です。
7月17日|注連縄切りと太平の舞
巡行当日、稚児には2つの役目があります。
ひとつが注連縄切りです。7月15日の午前4時30分に、高橋町が四条麩屋町に「斎竹(いみだけ)」を建てます。八坂神社は「山鉾巡行当日には長刀鉾稚児が太刀にて斎竹に張られた注連縄をきります」と書いています。
長刀鉾は午前9時に四条烏丸を出発し、東へ進みます。麩屋町は四条通を東へ進んだ先にあるので、出発してすぐの場面です。
もうひとつが太平の舞です。八坂神社は「巡行当日は長刀鉾正面に乗り太平の舞を舞います」と書いています。鉾の上で、囃子に合わせて舞います。
「お位もらい」とは何をもらうのか
13日の社参を、俗に「お位もらい」と呼びます。これは八坂神社の説明に書かれている呼び名です。
ただし何の位をもらうのかは、八坂神社の説明には書かれていません。「五位少将」「十万石の大名の格」といった説明が世の中には流れていますが、八坂神社と京都市観光協会の公開資料でそれを確認することはできませんでした。
確実に言えるのは、13日の社参を境に稚児の扱いが変わるということです。社参の前と後では、稚児は同じ子どもでも立場が違う——そこまでが八坂神社の説明から読み取れる範囲です。
地面に足をつけてはいけないという決まり
「稚児は社参のあと、地面に足をつけてはいけない」という話は広く知られています。移動のときは強力(ごうりき)と呼ばれる大人が肩に担いで運ぶ、と説明されます。
ただし、この決まりは八坂神社の説明には書かれていません。八坂神社が書いているのは「17日の巡行迄、身を慎み」までです。
巡行当日に大人が稚児を担いで鉾に乗せる場面は、中継や写真で確認できます。ただ「いつからいつまで」「どの場面で適用されるのか」を定めた文書は見つかりませんでした。ここは伝えられている話であって、文書で確認できる決まりではない、と分けて理解しておくのが正確です。
学校はどうするのか
稚児の行事は7月1日・13日・17日に集中しています。どれも平日にかかる可能性があります。
祇園祭の日程は曜日に関係なく固定なので、年によって平日になる日が変わります。2027年の場合、7月1日は木曜、13日は火曜、17日は土曜です。社参の13日は平日、巡行の17日は土曜になります。
学校をどう扱うかについての説明はありません。13日の社参から17日の巡行まで身を慎む期間があるため、その間の生活が通常どおりとは考えにくい——ここまでは日程から言えますが、実際にどうしているかは公表されていません。
費用はどれくらいかかるのか
「お稚児さんは1000万円かかる」という話がよく検索されます。この金額の裏付けになる資料は見つかりませんでした。
八坂神社にも京都市観光協会にも、稚児の費用に関する記載はありません。長刀鉾町が負担する分と、稚児の家が負担する分の区別も公表されていません。
分かっているのは何にお金がかかる構造なのかまでです。
- 衣装:立烏帽子・水干など、13日の社参と17日の巡行で装束が要る
- 騎馬:13日の社参は馬に乗る。従者も伴う
- 人手:稚児の世話をする大人がつく
- 関係先への挨拶:7月1日から約2週間、複数の神事に関わる
金額を知りたい場合の確認先は長刀鉾保存会になります。ただし選考自体が公募ではないため、一般向けに費用を案内している窓口があるとは限りません。
稚児を見られるのはいつどこか
稚児を実際に見たい場合、機会は限られています。
7月13日 午前11時|八坂神社の社参
騎馬で八坂神社に向かう道中と、境内での社参が見られます。午前11時の行事です。場所は八坂神社(四条通の東の突き当たり)。
同じ日の午後2時には久世稚児の社参もあるので、13日は稚児を2回見られる日です。
7月17日|四条麩屋町の注連縄切り
巡行当日、四条麩屋町で注連縄切りがあります。長刀鉾は午前9時に四条烏丸を出発するので、9時台の早い時間です。
ここは巡行で最も人が集まる場所のひとつです。四条通は前祭の巡行で先頭から順に東へ進むため、長刀鉾が通るのは一番最初になります。巡行全体の時刻は 祇園祭の日程 で確認してください。
鉾の上の稚児を間近で見たい場合は、巡行が始まる前の宵山の期間に長刀鉾の町内へ行くという手もあります。宵山の歩き方は 祇園祭の宵山 にまとめています。
よくある質問
Q. お稚児さんの父親は誰ですか
その年ごとに違います。選考の基準も家の条件も公表されていないため、「こういう家から選ばれる」と一般化できる情報はありません。
Q. お稚児さんは女の子でもなれますか
長刀鉾の稚児は男児が務めてきました。ただし資格を定めた文書は見つかりませんでした。
Q. 何歳くらいの子どもですか
年齢の条件を定めた記載は見つかりませんでした。報道で名前が出るときに年齢が添えられることはありますが、規定として公開されているものではありません。
Q. 稚児は後祭にも出ますか
長刀鉾は前祭の鉾なので、後祭の巡行(7月24日)には出ません。ただし同じ24日の花傘巡行には馬長稚児・児武者が出ます。後祭の内容は 祇園祭の後祭 を見てください。
Q. 歴代のお稚児さんは公表されていますか
その年の稚児は報道で名前が出ることがありますが、歴代の一覧を公開している資料は見つかりませんでした。長刀鉾町が記録を持っていると考えられますが、一般に公開されている形ではありません。
Q. 太平の舞はいつ見られますか
7月17日の巡行中です。鉾が動き出すときや辻回しの前後に舞います。
まとめ|お稚児さんの見方
確認できることと、そうでないことを分けると次のようになります。
八坂神社の説明で確認できること
- 長刀鉾以外の鉾では人形が使われている
- 7月1日の御千度に、その年の稚児と禿が参加する
- 7月13日11時の社参は立烏帽子・水干姿で騎馬。俗に「お位もらい」
- 社参から17日の巡行まで身を慎む
- 巡行当日は四条麩屋町で注連縄を切り、鉾の正面で太平の舞を舞う
- 久世駒形稚児は綾戸國中神社が主催し、神輿に供奉する
公表されていないこと
- 選考の基準と選ばれる家の条件
- 費用の金額と負担の内訳
- 「お位もらい」で授かる位の中身
- 地面に足をつけない決まりの範囲
- 学校をどうしているか
山鉾そのものの構造は 山と鉾の違い、祭全体の成り立ちは 祇園祭とは も参考にしてください。
この記事の情報は2026年10月19日時点で、八坂神社の「祇園祭」「祇園祭の神事・行事」、祇園祭宵山会議(京都府・京都市・八坂神社・祇園祭協賛会・祇園祭山鉾連合会ほか)の「祇園祭 宵山ガイド(WEB版)2026」を確認したものです。稚児の選考・費用・しきたりについては、公開されている一次資料に記載がないため、確認できた範囲のみを記載しています。
